脳卒中の約10%を占めるクモ膜下出血は、脳を保護するクモ膜と脳とのわずかな『隙間』にある血管が破れることにより、脳の表面全体に出血が拡がって発症します。脳出血や脳梗塞が脳の内部に起こる病態であるのに対し、クモ膜下出血は脳の外部(表面)に起こる病態といえます。出血する前は無症状のことがほとんどですが、一度出血すると突然激しい頭痛が起こり、吐き気や嘔吐を伴います。"後頭部を思い切りバットで殴られたような頭痛"などと表現する患者さんもおられます。出血の程度により、神経症状がほとんど無く軽い頭痛のみの場合もあれば、重篤な場合は意識を失い昏睡状態に陥ることがあります。一旦発症すると、約1/3の方は社会復帰可能なレベルまで回復しますが、約1/3の方は重い後遺症が残り、約1/3の方が亡くなってしまいます。
クモ膜下出血の約80%は『破裂脳動脈瘤』が原因で発症し、約15%が『脳動静脈奇形』といわれています。脳動脈瘤は人口の約2~3%の方が持っていると推定され、女性に優位に多く、家族性も報告されており、破裂率は年間約0.5~2%、年間10万人中10~20人がクモ膜下出血を発症するといわれています。
診断はCT(CTA:造影剤必要)やMRI(MRA:造影剤不要)、脳血管撮影(造影剤必要)などで行います。診断技術の発展により、詳細な評価が可能となりました。
治療は、脳動脈瘤が原因の場合、破裂した瘤(コブ)が再破裂しないように手術を行う必要があります。手術法には大きく分けて、瘤の根元をクリップではさむクリッピング術と、瘤の中に金属製のコイルを詰め込むコイル塞栓術がありますが、瘤の場所や大きさ、形などを考慮して、手術法を選択します。
手術自体も困難できめ細かい技術を必要とするのですが、術後も厳重な管理を要します。というのは、術後に『脳血管れん縮』という進行したら脳梗塞になりかねない合併症や、『正常圧水頭症』という認知症状や歩行障害、尿失禁という三主徴を来たす合併症を併発する可能性があるからです。ですから脳梗塞や脳出血が最初の脳のダメージで症状がある程度推測可能な病態であるのと異なり、発症した時の症状が軽く手術がうまく成功したからといって術後も決して油断はできないので、クモ膜下出血は怖い疾患といえます。